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栄木正敏の活躍
羽原肅郎 

 1995年の夏、フィレンツェの東北に位置する小さな町ファエンツァFaenzaを訪れた。小さな町と言ったが、陶磁器を専門とする人にとっては大きく、そして有名な町である。イタリア国立国際陶磁器博物館があり、このコレクションは勿論ツァだが、建築や出スプレイ、サイン・デザインにも感動した。その節、1997年には第50回ファエンツァ国際陶芸展を開催し、特別展として「世界のデザイナー展」も行うと聞いていた。その「世界のデザイナー展」とは世界中の陶磁器デザイナーから10名を選んで、その作品を展覧するものだったのである。選ばれたのは、フィンランドのT.サルパネパ氏、イタリアのAポッチ氏など7名と日本の森正洋氏・小松誠氏、それにこの栄木正敏氏である。

 古くから日本の陶磁器は世界的に有名でありすばらしい。しかし、いわゆるモダン・デザインのものとなると、どうだろうか。その出発は必ずしもトップではなかったと思うのは、私だけだろうか。それにいち早く気ずいたのが森氏をはじめとする日本のパイオニア達と、それに続く次世代、小松、栄木両氏の活躍である。その結果が「非常に多く調査・資料の中から選ばれたデザイナー10名の中に日本人が3名もいる。今後の日本の役割は展示作品も含めて注目に値する」と展覧会のカタログにティチャ−ノ・ダロポッツオ氏Tiziano Daipozzoに書かせた。この10名達は、今、モダン・デザインかポスト・モダンとは何か、と思考し、造形の新しい美の創造に向かって行動を開始した様に拝観する。

 私はファエンツァ国際陶磁器博物館を出て、日本に続いているイタリアの空を眺めながら、秀逸な陶磁器は、あらゆる人の日常生活の行動の中間の媒介物として、自分自身のために、あるいは人間と人間の関係において「精神の充実」や「信頼と調和」を体得させ、感激させてくれるものだと、思ったものだ。

 栄木正敏氏は、これらの亊象を最も熟知した造形作家だ、と私思っている


羽原肅郎 Habara Shukuro
明星大学 造形美術科 教授 デザイン評論家
1935年生まれ、写真家 二川幸夫助手、美術出版社「デザイン」誌 編集長
JIDA事務局長等を歴任。著書「構造の芸術あるいはデザインのポトスへ」(用美社)ほか多数


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